クラインヴィッセンのブログをご紹介いたします。
歩き回る編集者 1回め
2022年05月22日畑作地歩き
しょっちゅう遠出をするわけでもないが、毎日の散歩で2時間ほど周辺を歩く。編集部がある周辺は一面の畑作地で、2020年2月に日本農業遺産に認定された干し野菜の産地である。11月になると巨大な干しやぐらが建てられ、大根を干す。1月、年が開ける頃まで寒風にさらし、すっかり水分が抜けた大根は、千切り大根やたくあんに加工され、全国へと出荷される。
この一帯の畑には鰐塚山からの冷たい風がおりてくるので、干し野菜づくりには適しているそうだ。
でも日本農業遺産に認定されたのは、ただ干し野菜の産地だからではない。近代農耕地域にはめずらしく、耕畜連携によって土作りから、生物多様性の維持から、農薬・化学肥料の制限から、すべてがうまく回る仕組みができていることによる認定だと聞いた。
この地域は畑で作物を育てている傍らで、畜産が営まれている。畑のそばに牛舎がある。住宅地のなかにも牛舎がある。散歩の途中で牛の声が間近で聞こえる。そういう地域なのである。
こうした環境を生かして、畑での同作物連作を避けるための牧草が育てられている。牧草を刈り取ったあとは、土に牧草の根をすきこみ、滋養豊かな土をつくる。また、牛たちのフンは堆肥となり畑の土を改良するために使われる。
滋養豊かな土は健康な野菜を作るのに欠かせない。野菜が健康に育ちやすい土地だから、必要以上に病害虫を抑えるための農薬を散布する必要もなく、多くの昆虫が生息する環境を維持できる。そのことは天敵昆虫となるものもたくさん生息していることを意味し、さらに農薬による駆除を必要としなくなるということにもなる。
さらにいえば、昆虫がたくさん生息する環境には、多くの鳥類が暮らすことができる。スズメ、ムクドリ、モズ、チョウゲンボウ、カラス、トビなどは馴染みの鳥たちである。
このように農薬や化学肥料を使わずとも生産性が高められるシステム(エコシステム)が構築されるのである。
じつは、毎日の散歩で、あぜ道や休耕畑に雑草が生い茂っている景色をみて、「ほったらかしだな」と思っていたのだが、これにも意味があったのだ。
あぜ道や休耕畑に雑草を生い茂らせておけば、そこで昆虫たちの暮らしがなりたち、生産物への虫害が抑えることができるわけだ。
じつによく考えられた農耕システムであることか。
編集部の脇にある庭に箱庭板農耕システムを造ってみたくなった。まずはトンボなどの捕虫昆虫を呼べるビオトープをつくり、家庭菜園をつくり、鳥たちが来るように木を植えよう。
そして、3年目。箱庭版農耕システムはギクシャクしながら周りだし、庭ではモズの夫婦が餌場として顔を見せるようになり、昆虫を食べにムクドリが集まり、それを高みから狙っているチョウゲンボウが姿を見せるようになった。
家庭菜園の収穫はアスパラ、キャベツなど、夕餉を賑わすとまでは行かないが、楽しみを添えてくれている。
今年は蜂の巣(うと)を2つ設置した。ミツバチが入ってくれると、うれしい。
歩き回る編集者
2022年05月20日今月から新しいシリーズ「歩き回る編集者」を連載いたします。
編集者はつねづね、面白いネタはないだろうかと歩き回ります。フィールドワークです。ま、散歩が趣味ということもありますが、あちこちへと出かけることを心がけています。もちろん限界はありますけれど。昨今の新型コロナウイルス感染症が拡大している間は、県外はおろか、近くへでも出かけることが難しい状態でした。そういうときは本のなかで、あれこれと想像を巡らせ、目新しい視点や考え方に出会うことを楽しむようにしています。
そのような編集者の様子を、なるだけ客観的に伝えられると、本を作るコトへの興味や、本への関心をもってもらえるのではないか? という狙いとしたシリーズです。
楽しんでもらえればうれしいです。
更新は隔週で月曜日です。第一回目は5月23日。お楽しみに。
もっか編集中につき
2018年03月03日編集者って、何、している 4
先日、編集者は何をしているかという話のなかで、目次づくりであれこれ提案する、と書きました。
今日は、目次づくりについてお話しましょう。
原稿を書くときでも、講演をするときでも、まずテーマを決めますね。
そのテーマをどう伝えるかというのが、原稿や話の流れです。
そして目次というのは、流れのポイントになる部分です。
流れといっても「はじめ」から「おわり」まで区切りなく、それこそ流れるように連続した文章だと、読む方はかなり疲れます。読んでいるうちに「何を伝えたいんだ? この原稿は」ということになる場合が少なくありません。
それを避けるために、テーマを伝えるために幾つかのポイントに分けて話をすすめるのです。そのポイントが目次(構成ともいえますね)です。
たとえば「わたしとデュクロ」(デュクロというのは私の愛犬の1匹です)というテーマで原稿を書くとします。
伝え方はいくつかあると思いますが。
「わたしとデュクロ」で何が伝えたいのかを考えてみます。
デュクロというベルギーシェパードの雄犬を紹介して、どのように彼と出会ったのかを話し、最初の印象が暮らしをともにすることでどう変化したのかを語り、わたしにとってデュクロがどういう存在になっていったかを伝えたい。
と考えたとしましょう。
それを目次(構成)案にすると、こんな感じでしょうか。
1 デュクロってどんな子
2 出会いは突然
3 知れば知るほど
4 デュクロを通してわたしを知る
こうして原稿の方向がゴチャゴチャにならないように、細かなまとめ記事を繋ぐように構成を考えるのです。
目次(構成)案ができれば、そのひとつひとつの小さなまとまりを書いていきます。
こうしておくと、修正するのも、小さなまとまり記事を整えることに集中できるので、難しくないのです。
最後に、それぞれの小さなまとまり記事がうまく流れているか。それぞれの存在が矛盾していないかを確認して、全体を整えます。
もちろん原稿を書くときは、感情の赴くままに原稿用紙に一気に書き上げることもあります。私の場合は、感情的な文章を、やや冷めた気持ちになってから書くときは、一気に書き上げるスタイルでしょうか。
でも多くの場合は構成を練り上げて、筋道を確認しながら書きます。失敗がないし、書くという作業への抵抗が少ない気がします。
文章を書くことが好きな方も、抵抗を感じない方ももちろん沢山いらっしゃいますが、第三者、不特定多数の誰かに伝える原稿を書くときは、筋道の作りやすい目次(構成)案から考えて、書き始めてみてください。こうすることで、自分の思い込み、分かっていたつもりの曖昧な部分も発見できます。
おためしあれ。
(つづく)
もっか編集中につき
2018年02月21日編集者って、何、してる 3
書籍紙面のデザインが決まり、原稿を流し込んだものがゲラです。最初に出すのが初稿ゲラ。書籍紙面で読むと原稿のときには感じなかった違和感というか、もう少し工夫が必要な表現だとか、長いと感じる文節だとかに気がつきます。もちろん読者の視点にも立ちやすくなるので、理解しにくい内容にも気がつきます。
こうした工夫が必要なところを修正提案します。これが編集者の大切な仕事だと思います。
自費出版なら著者が執筆した内容をそのまま本という形にすることもあります。それはそれでひとつの形だと思いますが、編集者が介在している企画書籍とは違うものだと思っています。
前者に比べると、読み手に伝えたい意識が強いと言えるでしょう。その点でも、著者の伝えたい内容を、より伝わりやすいものにするのが編集者の重要な仕事だと思っています。
こうした作業をなんどか繰り返し、1冊の書籍は完成していきます。
(つづく)
もっか編集中につき
2018年02月07日編集者って、何、してる 2
こんにちは。先日、編集者が何をしているのかをお話しはじめて、目次を作ることを丁寧に、きちんと行う、というところまでお話しました。
目次の作り方はいろいろありますが、その方法については別の機会に譲りましょう。
目次案ができたら、著者と打ち合わせをします。複数の著者の共著の場合は、まとめ役となる編著者と打ち合わせをすることになります。
著者からの原稿がすでにある場合は、その原稿の章立てなどを見直し、章の移動や加筆、削除なども含め、目次を組み直し、それができたら著者と打ち合わせをします。
著者や編著者と打ち合わせをして、お互いに納得のいく構成になれば、いよいよ執筆依頼をします。
文体、統一表記など大まかな決まり事を含め、文字数など執筆にあたって注意してもらいたいことを伝えます。
執筆期間は編集者は暇? いいえ、そんなことはありません。この間にデザイナーと打ち合わせをして、どのような紙面を作っていくかイメージをかためていきます。
本は原稿の良さだけでなく、見た目(紙面デザイン)がとても大切な要素です。読みにくい、読みやすいは紙面デザインに左右されることもあります。たとえば、文字数が多く、少し難しい表現の多い原稿であっても、文字色を墨ではなく、少し茶系の特色を使ったり、行間を広めに取ったりするだけで読みにくさは緩和されることがあります。
組版も編集者自身がする場合も少なくありませんが、私はできるだけデザイナーに入ってもらうようにしています。私が「こういうイメージの紙面にしたい」と好き勝手に希望をしゃべっても、しっかりと受け取って形にしてくれる。そういう力量のある書籍デザイナーの存在は、本を作るうえでとても重要だと思っています。もちろん予算のあることですから、無理な場合は自分で組版も行いますが。
(つづく)
もっか編集中につき
2018年02月06日編集者って、何、してる 1
こんにちは。編集者っていったい何をしているのだろう。そう思ったこと、ありませんか。わかりそうで具体的にはわからない職業のひとつだと思います。
ざっくりと言うと、こんな感じです。
●書籍として出版するためのネタを探す。そのネタはおもしろい著者であることもあります。
だから、「こんなのどう?」とか「この原稿どう」などご提案はいつでもお待ちしております。編集者は多くの場合、人の話をきくのが好きな人間だと思います。私もそう。でないと編集者は続きませんし。それにおもしろいことには首を突っ込みたくなるタイプの人間でもあります。だから、ぜひ。たとえそのアイデアがすぐには本にならなくても、編集者の意見を聞いてみる、というだけでもお得です。費用もかかりませんしね。(時間はかかりますけれど)
●ネタを、あるいは著者の持つおもしろいところ(研究とか考え方とか、生き方とか)を企画にまとめる。
●書籍の仕様をざっくりと想像し、予算を考える。
●いけそうだな、と思える形が見えてきたら、著者と打ち合わせをはじめる。
ここまでは準備段階。といっても私はここをもっとも大事にしています。多くの編集者もそうではないかと思いますが、それぞれに編集への取り組み方は違うので、「私は」ということです。
運良く、著者も乗り気になってくれて、いざ、書籍作りへ、となりますが、原稿を作って行かなくてはなりません。ネタとして著者が持っている原稿がすでにあり、それを私が見て、本にしたいと思った場合はその原稿を元に、本にするための原稿にしていく、という作業がはじまります。
まず、本としての構成を考えます。目次を作ると思ってもらうとわかりやすいですかね。そう、目次って大切なのです。単なる本の内容の紹介ではなくて、この本がどんな構成になっているかを示した地図のようなものなんです。
原稿を書くときも、この地図がきちんとしていると迷いません。これから原稿を書くときは、目次つくりを慎重に、きちんとやってください。ぐんと書きやすくなると思います。
(つづく)
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